連載企画 09
更新日:2017年11月22日(水) 医療・病院のトレンドを知る
大量採用から転換する
大規模病院の就活事情
大量採用を目ざしていた大規模病院
今、大規模病院が変わりつつあります。
2006年、診療報酬改定によって、患者さん7人につき看護師1人を配置する「7対1入院基本料」が導入されました。重症で緊急性の高い患者さんを受け入れる急性期病院への優遇処置ですが、これによって7対1看護体制の病院はより多くの診療報酬を得られるようになったことから、大規模病院が7対1看護体制を目ざした結果、看護師の奪い合いが生まれ、大量採用、大量退職という事態が生じました。
こうした事態を受け、病棟内の医師の数の割合が入院患者の10分の1以上占めていること、より重症度の高い患者さんが一定の割合いることなど、 一般病棟・特定集中治療室における看護必要度などの施設基準や地域包括ケア病棟入院料の見直しなどにより、国は2008年に7対1看護体制のハードルを上げ、さらに「10対1入院基本料」を引き上げることで、10対1看護体制への移行を促しました。
2016年の改定では、7対1看護体制の条件にさらに手術など医学的評価や看護必要度の患者割合の基準値が引き上げられ、7対1の入院基本料の条件を満たせるのは限られた病院になりつつあります。
これにより看護師の奪い合いこそ減ったものの、看護師不足は依然深刻な状態にあります。看護系大学の増加などもあり、就労看護師数もこの10年で33万人あまり増えているものの、超高齢社会による需要度の高さに看護師の供給が追いついておらず、看護師の求人倍率は2.5倍を超える状態が続いています。
需要増大のなか限界がある新規採用
少子化が進むなか、病院は新規採用だけに頼るのはもはや限界があります。この状況を乗り切るには、第1に入職した看護師が辞めないでずっと定着するような取り組みが必要です。
ここに興味深いデータがあります。日本看護協会が発表している常勤看護師と新卒看護師の離職率です。7対1看護体制の診療報酬が改定されたの翌年の2007年と2011年を比較すると、常勤が12.6%から10.9%に、新卒が9.2%から7.5%に下がっています。2016年が常勤10.9%、新卒7.8%ですから、2011年の状態が今も続いていることがわかります。
もう1つデータがあります。就労看護師の従事期間の推移です。2006年と2016年を比較すると、従事期間1年未満は19%から14%に減り、逆に従事期間2年以上は67%から75%と増えています。このことから、看護師の定着率が上がっていることがうかがえます。
働きやすい環境に着手しはじめている大規模病院
なぜ、定着率が上がっているのでしょうか。
その原因の1つと考えられているのが、今、大規模病院を中心に行われているさまざまな改革です。
たとえば、7対1看護体制の条件を満たしているある大規模病院は、2008年の離職率が30%を超えており、深刻な人員不足に陥っていました。この状況を変えるべく、「短時間正職員制度」を導入。「フルタイム(週40時間)、夜勤あり」「フルタイム、日勤のみ」「短時間勤務(週30~39時間)、夜勤あり」「短時間勤務、日勤のみ」など5つの勤務形態を用意。看護師が好きな勤務形態を選べるようにし、さらに、毎月変更ができるようにしました。
その結果、制度導入直後の5か月間の退職者は前年同時期の5分の1にまで激減。退職者が減ったことで看護師がふえ、時間外労働も月平均15.5時間から10.9時間にまで減らすことができました。
また、ある急性期病院では、妊娠した看護師のほとんどが退職していました。そこで、看護部長が子どもがいても働ける職場づくりに着手。まず、小学生以下の子どもがいる看護師には夜勤を免除。また、小学校就学前の子どもがいる看護師の日勤者には保育園料として月2万円の補助、夜勤者には全額補助 、あるいはベビーシッターをお願いするための費用の補助を実施。さらに、小学生の子どもがいる看護師には役職に応じて育児手当を支給するなどとしました。
すると、制度を導入した年の28名の看護師が育児休業や産前産後休暇を取得したのち、ほぼ全員が復職しました。
大規模病院ほど離職率が低い
2015年の病床規模別の常勤と新卒の看護師の離職率をみると、99床以下の小規模病院は12.3%と13.9%ですが、500床以上の大規模病院では10.2%と7%と、離職率に大きな差が出ています。
病床規模別の看護師離職率(2015年)
病院数 | 常勤看護師 | 新卒看護師 | |
---|---|---|---|
全体 | 3,069 | 10.90% | 7.80% |
99床以下 | 741 | 12.30% | 13.90% |
100~199床 | 989 | 12.20% | 10.10% |
200~299床 | 456 | 11.40% | 8.40% |
300~399床 | 345 | 11.00% | 8.00% |
400~499床 | 235 | 10.20% | 7.80% |
500床以上 | 288 | 10.20% | 7.00% |
無回答・不明 | 15 | 12.80% | 5.60% |
出典:日本看護協会
かつて大量採用に力を入れていた大規模病院。少子化で看護師の供給に限りがあるなか、定着率の向上によって看護師を確保する動きが、確実に生まれつつあります。