連載企画 06
更新日:2017年11月1日(水) 医療・病院のトレンドを知る
在宅看護における
新しい人材ニーズ
超高齢社会になり、わが国の医療費は増加の一途をたどっています。2015年度は対前年比で1.5兆円も増えて41.5兆円になり、13年連続で過去最高を記録しました。日本の税収は約55兆円(2015年度)なので、医療費だけで税収の約74%も使っている計算になります。今後は団塊の世代全員が75歳以上となる「2025年問題」を抱えていることから、さらなる増加が見込まれており、日本の財政はまさに危機的な状況といえます。
こうしたなか、国は医療費を抑えるために在宅医療へシフトする方針を掲げ、診療報酬の改定を重ねてきました。在宅医療を手厚くする政策をとっています。この政策に伴い、在宅看護のニーズが高まり、在宅看護に従事するナースの需要も増えています。
たとえば、在宅看護を行う医療施設の1つである訪問看護ステーションの数を見てみると、2002年は4,930カ所だったのが、2017年4月1日現在で9,735カ所と倍近くも増えています。この数字だけ見ても、医療現場において、在宅看護が大きな柱の1つになっていることがわかります。
在宅看護のお仕事
では、在宅看護と病院での看護はどう違うのでしょうか。
もっとも大きな違いは目的です。病院では主に「治療」が目的ですが、在宅看護では「生活を支える」ことが中心になります。点滴や注射、カテーテルの交換、痰の吸引、経管栄養の管理、がんなどで痛みがあれば痛みのコントロール、寝たきりの患者さんであれば身体を拭いたりすることもあります。また、脈拍や血圧などのバイタルチェックをして医師に報告するのも大事な仕事です。
このように、患者さんが自分たちではどうにもならない部分を、看護師が訪問してサポートしてあげることで、快適な生活を送れるように支援するのが、在宅看護の主な目的になります。
在宅看護のメリットと特徴
在宅看護にはさまざまなメリットがあります。まず1つは、患者さんのお宅にあらかじめ決められたスケジュールどおりに訪問して回るため残業がほとんどなく、プライベートとの両立が図りやすい点です。ただし、多くの場合でオンコールがあり、当番制で夜間は携帯電話を家にもち帰ることになりますが、実際にはあまり電話が鳴ることもないため、さほど大きな負担にはなりません。
2つ目は給与面。診療報酬が在宅看護に手厚くなっていることもあり、給与が病院より高いところが多くなっています。つまり、残業が少ないのに給与が高いというまさに理想的な職場環境なのです。
そして、在宅看護の大きな特徴は、1人で対応するということです。病院は医師や薬剤師、理学療法士などさまざまなスタッフと協働で対応しますが、在宅看護は患者さんの家に1人で訪問し、患者さんとコミュニケーションを図りながら、さまざまな処置を行っていきます。目の前で起きていることに対し、自分で判断して処置していくことになるので、冷静な観察力と判断力が求められ、自然とそうした能力を身につけることができます。
在宅看護のメリット
- 残業が少ないので仕事とプライベートの両立が図りやすい
- 給与が病院よりも高いことが多い
- 1人で対応するので、冷静な観察力と判断力が身につく
「特定看護師」という選択肢
こうした在宅看護の高いニーズを受け、2015年10月、「特定行為に係る看護師の研修制度」、通称「特定看護師」という新たな制度もスタートしました。一定の研修を受講することで、これまで医師しか許されなかった38の医療行為を看護師でも行えるようにしました。この制度により、医師が訪問しなくても、在宅の現場である程度の医療行為が看護師1人で完結できるようになったわけです。
指定研修機関は、29都道府県で58機関あり、大学院、大学、病院などで研修を受けることができます。2017年8月時点で583名の看護師が研修を修了しています。
将来の選択肢の1つとして
在宅看護は1人で処置を行う職業上、ある程度の知識や経験が必要になるため、新人ナースに向いているとはいえません。しかし、残業が少ないなどのメリットがあるため、結婚後でも看護師の仕事を続けていきたいという場合、訪問看護師は無視できない職種といえます。将来の選択肢の1つとして、ぜひ頭に入れておきたいところです。